【考察】『ハイパーインフレーション』で多くの人が気づいていないこと④ 奴隷の投げ荷は史実!...だが...

↓前回

mugrumat.hatenablog.com

 

今週の13話は間違いなく神回でしたね。

それでモチベーションが生まれたので、13話とは関係ないですが、以前から書こうと思っていた奴隷の投げ荷についての解説を書きたいと思います。

 

ja.wikipedia.org

...と言っても全部これに載っている程度の内容ですが... 補足しながら説明します。

 

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住吉九 『ハイパーインフレーション』(集英社)7話 より

まず前提として、奴隷船では通常10%ほどの奴隷が着くまでに死んでしまうそうです。

アフリカからヨーロッパまで3ヶ月以上かけて拘束された状態で航海するのですから、想像に難くないと思います。

 

加えてこのゾング号では過剰に奴隷を詰めた航路を間違えたという二つの要因から深刻な水不足に陥りました。

船員も約4割が死んでいたそうなので、このままでは全滅も有り得たのではないでしょうか。

 

そこで船員たちが会議をした結果、ハイパーインフレーション本編のように奴隷の投げ荷を行ったのです。

 

これにより数日かけて132人が海へ捨てられました。

(個人的に一番ショッキングなのは女子供から先に捨てられたということですね...)

 

そして442人乗せられていたのが、イギリスに着く頃には他の死因も合わせて半分以下になってしまったそうです。

 

そしてやはり、イギリスに着いた船員たちは、投げ荷の保険金の支払いを求めて裁判を起こします。

 

結果は敗訴。

 

 

え?敗訴してるじゃねーか!フラペコが言ってたのはなんだったんだ!

 

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住吉九 『ハイパーインフレーション』(集英社)7話 より

ですが事実、ゾング号は敗訴こそしましたが、殺人罪には問われていません。

もし航路を間違えたりしていなければ、一部でも保険金が降りた可能性があるのです。

(実際、死んではいなくとも、健康状態が悪く商品にならない奴隷は船医の判断で海へ捨てることはよくあったそうです。)

 

あまりに残酷な内容なので、史実ではあってほしくなかったのですが、これもまた史実です。ハイパーインフレーションの内容が史実に基づいていて時代考証がなされていることは②で確認しましたから、そうは思っていましたが。

mugrumat.hatenablog.com

 

ただ、ゾング号事件は1781年の出来事であり、イギリスでは1807年奴隷貿易を禁止する法律ができていることに注意が必要です。

ハイパーインフレーション19世紀中頃の話ですから、当然その頃のイギリスで保険金をかけて裁判するなんてことはできないはずです。

しかし本編ではガブール人同士ならば奴隷貿易禁止の法律をかいくぐることができるみたいです。その状況でグレシャムとフラペコが一体どういう流れで投げ荷の保険金を受け取れるのか、気になるところではありますが。

 


 

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